ルーシー・パイパー(medwireNews記者)
medwireNews: 血液バイオマーカーは、認知機能低下の初期段階でアルツハイマー病(AD)のリスクを層別化するための有用なツールであるが、本当の意味でADを「診断」するのだろうか?
これは、英国ロンドンで開催された第18回世界神経学会議(World Congress on Controversies in Neurology)において、ローベルト・ペルネツキー氏(ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン、ドイツ)とアルファン・イクラム氏(エラスムス大学医療センター、ロッテルダム、オランダ)の間で行われた討論で提起された難しいテーマである。
血液バイオマーカーは「重要なツール」である
ペルネツキー氏は、ADの診断にリン酸化(P)-タウなどの血清マーカーを使用することを支持する主張において、ADの診断は臨床的なものよりもむしろ生物学的なものへとシフトしてきており、そのため血液バイオマーカーがADを初期段階で診断する重要なツールとして台頭してきており、血漿マーカーおよび脳脊髄液(CSF)マーカーの中心はアミロイドβ蛋白質症(Aβ42)とP-タウ(P-タウ217、181、231)であると述べた。
またバイオマーカーが「臨床判断に影響を与える」ことを示唆するギル・ラビノヴィッチらによる研究に言及し、軽度認知障害(MCI)の数千人のメディケア受給者を対象とし、アミロイド陽電子放射断層撮影(PET)の結果が陽性であった場合、抗AD薬の使用率が、PET前の約40%からPET後には80%に倍増することを指摘した。同じ集団においてアミロイドPETの結果が陰性である場合、影響は少なく、抗AD薬の使用は27%から24%に減少した。
また、研究によると、血漿P-タウ181は、CSF P-タウ181、タウおよびAβ PETと有意な相関があり、認知機能が健常な状態から前臨床AD、MCI、ADへと進行するにつれて増加するとペルネツキー氏はコメントした。また、P-タウはCSFバイオマーカーと同等の精度で認知症患者のサブグループ間の識別に使用することもでき、P-タウ陽性は臨床的進行のリスク上昇と関連すると付け加えた。
さらに、ペルネツキー氏は、このような知見は、リアルワールドデータを用いた最近の研究からも再現されており、血漿中のAβ42/40比とP-タウ217は、Aβ PETと相関することが、最近発表されたばかりのマシュー・マイヤーらの研究で発見されていると指摘したが、血漿バイオマーカーは、BMIやクレアチニン値などの要因に影響される可能性があるため、血液バイオマーカーを臨床で使用開始する際には注意が必要であるとペルネツキー氏は警告している。
さらに、新規抗アミロイド薬の最近の承認に加え、現在、多くの新規化合物が臨床試験で評価されており、血液バイオマーカーの使用は重要であると同氏は強調し、現在、第3相試験中の薬剤が36種類、第2相試験中の薬剤が87種類あることに言及した。
同氏は、プライマリケアにおける血液バイオマーカーの適切な利用法は、オスカル・ハンソンらの研究のように、デジタル認知ツールとともに、アルゴリズムを作成して、認知症状のある患者を、「心配する必要のない」ADの可能性が低い患者、メモリークリニックでの高度検査を考慮すべき中程度の可能性がある患者、疾患修飾治療の良い候補となる可能性が高い患者に層別化することであると述べた。
そして、専門医が脳PETや脳髄液検査を行う前に、AD病態の可能性が低い患者を除外し、プライマリケアでの継続的なモニタリングのために紹介できるように、詳細な認知機能検査や脳磁気共鳴画像法(MRI)とともに、主にセカンダリケアでの評価に血液バイオマーカー使用すべきであると指摘した。
診断かリスクプロファイルか?
血清マーカーはADの診断には有用ではないと主張するアルファン・イクラム氏は、疫学者の見解を述べた。血液バイオマーカーによってADを診断するためには、その定義上、「疾患の存在を明らかにする」必要があるが、現在のバイオマーカーはそうではなく、「根底にある疾患のプロセス」と「疾患のリスク」を反映するものであると述べ、早期診断のためには、バイオマーカーが、疾患が生じるために常に存在しなければならないという点で、疾患の本質的な原因であることが必要であるが、例えば、タウがない人でも認知症を発症する可能性があると説明した。同様に、診断用のバイオマーカーは十分な原因となりうる。タウが存在してもADを発症しない人がいることを除外すれば、それ自体で疾患が存在するには十分であるとイクラム氏は指摘した。
イクラム氏は、米国国立加齢研究所とアルツハイマー病協会が共同で作成したADの生物学的定義に向けた枠組みについて言及した。これは、ベータアミロイド(Aβ)と病理学的(P)-タウの両方を示すバイオマーカーのエビデンスがあれば、ADという用語を適用できると述べている。しかし、この生物学的根拠に基づくADの定義は、これらのバイオマーカーのいずれかが疾患の原因であることに依存しないと強調した。
さらに、このようなバイオマーカーをAD診断の定義に用いることは「危険」であり、臨床的にADを発症することのない人達に不必要な治療を行うことにつながるおそれがあり、ADの新たなリスク因子に関する臨床研究が妨げられると述べた。
イクラム氏は、このようなバイオマーカーは、個人の「リスクプロファイル」の決定に使用すべきであると指摘した。
さらに、疾患を「病因学的」に分類するのではなく、推定されるリスク因子やバイオマーカーの存在によって疾患や症候群を診断するべきである。単例えば、アミロイドおよび血管病変が存在するがタウは存在しない認知症であると単に言うべきである、と述べた。
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